ヘリウムエスケープバルブとは

ヘリウムエスケープバルブとは、名称の通り「時計に入ったヘリウムを時計の外に出す」システムのこと。
この機構は高い防水性を誇るダイバーズウォッチに搭載されていて、プロダイバーの証として親しまれてきました。
しかし近年は、耐衝撃性・視認性にも優れたダイバーズウォッチをダイバーではない方が選ぶケースが増えていて、ヘリウムエスケープバルブがどのようなものなのか分からない方も多くなっております。

そこで今回はヘリウムエスケープバルブについて書いていきたいと思いますので、ぜひ最後までお読み下さいませ。

潜水の種類について

そもそも、なぜ、どのような状況でヘリウムが時計に入ってしまうのかについて、まずは潜水の種類からご紹介していきたいと思います。
潜水の種類はご使用になる呼吸ガスの違いや潜水方式によっていろいろな分類方法があるのですが、時計の防水性から分類すると以下のようになります。

飽和潜水

プロの潜水士が行っている深海への潜水のこと。
これに耐えうる時計は“二種潜水時計”と呼ばれており、潜水時間、減圧時間を測定するのに必要な逆回転防止機構付きベゼルやヘリウム対策の機構が付いております。
ヘリウムエスケープバルブが活躍するのはこちらの飽和潜水になりますので、次項にてもう少し詳しく書いていきたいと思います。

スキューバ潜水

空気ボンベを使用して行っているスキューバダイビングなどのこと。
こちらの潜水に対応する時計は“一種潜水時計”と呼ばれており、水深100~200mまでの耐圧性と長時間潜水に耐えることができます。

スキンダイビング

空気ボンベを使用しない潜水のことをスキンダイビングといいます。
これに耐えうる時計が日常生活用強化防水と呼ばれる10気圧・20気圧防水の時計です。

飽和潜水について

飽和潜水とは水深100mを超える深海への潜水で行われる潜水方式のことで、体を深海の圧力に耐えられるように慣らしてから潜水を行う技術のこと。
人の体の中にはいろいろなガスが溶け込んでいて、潜水をすると高い水圧が体に掛かります。
水圧は10m潜るごとに1気圧ずつ大きくなっていきます。
この状態になると地上にいる時よりも多くのガスが体に溶け込んでしまいます。
逆に浮上する時には水圧が小さくなっていくので体に溶け込んだガスは血管などに排出され、体外に出ていきます。
しかし体調が悪かったり、深海から海面まで急激に浮上してしまうと血管中に溶けきれなくなったガスが気泡となって現れて血栓となって血管を破いてしまうことがあります。
加えて、深海に潜れば潜るほどこのリスクが増えることも覚えておかなくてはいけません。
しかし、体に溶け込めるガスの量も限りがあるので、あらかじめ地上で加圧して体に最大量までガスを取り込ませ、飽和状態にしておけば安全性も効率性も高まります。
この原理を用いた潜水方法が飽和潜水ということです。

ヘリウムを使用する理由

深く潜るにつれて、呼吸ガスの圧力は大きくなります。
それに伴い空気の8割を占める窒素の圧力も大きくなりますが、一般的に深度40m以上になると窒素は麻酔作用を引き起こします。
これを“窒素酔い”といい、お酒に酔ったような状態になります。
窒素酔いになると判断力が著しく低下したり方向感覚を失うといった症状が起こり、極めて危険な状態になります。
深く潜る際には窒素に替わる気体を混合させたガスを使用しなければなりません。
そこで使用されるのがヘリウムガスで、ヘリウムガスには以下のような利点があります。

●高い圧力でも麻酔作用を起こすことがない
●体内に溶け込む量が少ない
●体内から排出される速度が大きい
●長時間潜水では空気の場合より減圧時間が短く済む
●空気抵抗が少ない

※聞き取りづらい声になったり、値段が高かったりという欠点はあるものの、安全性が高いので酸素中毒を引き起こさないよう配合させて使用します。

ヘリウムエスケープバルブがないとどうなるのか

飽和状態まで潜水すると浮上する時にも一気に浮上しないで、減圧チャンバーという容器に入って長い時間を掛けて体に溶け込んだガスを排出しなければいけません。
ヘリウムはとても小さい分子なので、作業中や減圧チャンバーに入っているときに隙間から時計の内部に入り込んでしまいます。
高圧状態で入り込んでいるのでこの時のヘリウムはとても高圧になります。
それが浮上していくにつれて周りの気圧が下がっていくと時計の中の気圧が外よりも大きくなってしまいます。
この状態に時計が耐えられずに破裂してしまうので、深く潜る際は入り込んだヘリウムを外に逃がすシステムが必要になります。
その為に作られたのがヘリウムエスケープバルブになります。
時計が破裂してしまうとその破片等でダイバーが危険にさらされることになります。
ヘリウムエスケープバルブは深海に潜るダイバーを守るために考えられたシステムといえます。

その他のメーカーのヘリウムガス対策

ヘリウムを逃がすという機構以外に、SEIKOのマリーンマスターはヘリウムを時計に侵入させない特殊なパッキンを採用しております。
IWCは時計内のヘリウムガスの圧力程度では損壊しない極めて丈夫なケースと風防を採用していて各社によってヘリウム対策への仕様は様々なのです。